『これってホントにエコなの?』を読んで考えた「戒律」的なものの必要性
エコなライフスタイルについての情報を発信する「pebble」というウェブマガジンを創立したイギリス人の編集者ジョージーナ・ウィルソン・パウエルの著書『これってホントにエコなの?』(東京書籍、2021年9月発行)を読んだ。
食事、掃除、買い物、旅行といった生活の中で起きる一つ一つのシチュエーションについて、どんな消費行動をすることが最も「エコ」か、というテーマで、これでもか、これでもかというぐらい多岐にわたって情報が詰まった本だ。
『これってホントにエコなの?』から得た3つの驚き
いくつも「へぇ!」があったんだが、「へぇ!」の種類を分類すると主に下記の3つになる。
①データで比較してみると、思ってたのと違った
たとえば、ガスコンロとIH、どっちで調理するのがエコか。電力を消費するIHよりも、昔ながらのガスの火のほうがエコかと思いきや、実は熱伝導効率が良いIHのほうに軍配があがるという。
同じ分量の食材を調理するのに、ガス火は0.9キロワット時の消費エネルギーなのに対し、IHは0.5キロワット時。全体としてもガスより電気の方が効率が良いから、グリルよりもトースター、オーブンよりもスロークッカーを選んだほうが消費エネルギーは少なくて済むのだとか。意外。
②「何回以上使えばエコ」情報は面白い
たとえば、コーヒーのマイカップは、環境負荷の最も少ないポリプロピレン製だとしても、20回以上使わないと使い捨てカップよりエコではない。
シャワーを浴びている時間が7分間を超えると、浴槽にお湯を満たすよりも多量の水を消費していることになる。
エコバッグは、再生可能なプラスチック製で12回、トートバックなら130回使わないと、使い捨てのレジ袋よりもエコではない。
などなど。もちろん、著者の住むイギリスと日本では細かい条件は違ってくるだろうが、こういった情報は、単に「エコバックは実はエコじゃない!(だからレジ袋を復活させろ)」みたいな感情的な意見に対して、冷静に数字を比較して考えるヒントになるという点で、非常に有益だと思う。エコバッグは、長く使って初めてエコなのだ。
③これはご無体な・・という「不都合な真実」
何もそこまで突っ込まなくても・・と思うような耳の痛い情報もある。
たとえば、バーベキュー。炭火式はガス式の2倍の有害粒子を大気に放出するので、避けるべきだという。でも、ガス式も化石燃料を消費しているから、再生可能エネルギーでつくられた電気を使う電気式バーベキューが最適。
……いやいや、気持ちはわかるけど、そこ電気式にしちゃったらもうそれ、家で食べたほうがいいくらいじゃないですかぁ! と、思わずうなってしまった。
あとは、グレタさんのアピールでもお馴染みの、飛行機旅行の弊害の話。ニューヨークからロンドンまでのフライトによる1人あたりの二酸化炭素排出量は、発展途上国に住む1人が1年間に輩出する平均的な排出量を上回るくらい、飛行機はエコじゃない。
だから、もう飛行機に乗らない決意をしましょう、とまではこの本は言っていなくて、なるべく1回の旅行の日数を増やして、なるべく1年間に飛行機に乗る回数を減らしましょう、などと代替案が提示されているのだが、やっぱり突き詰めると、飛行機はなるべく乗らないほうがいい、ということになってきそう。海外旅行好きな自分としては、正面から向き合うのがつらいテーマだ。
ということで、生活に密着していて、色々な発見がある本。ただ、一方でもう一声、と思うこともあった。
個別論だけでなく「ざっくりした原則」が知りたい
一つ一つのシーンでこれを買いましょう、あれは買ってはダメ、という細かなチョイスが語られるのだが、ハッキリ言って、情報量が多すぎて最後まで読むとけっこう疲れるし、とても実行しきれない、と思えてくる。
もっと、全体を貫く「原則」のようなものを提示して、個々の場面はその「原則」に沿って、各場面でどんな商品を選ぶかを考えればいい気がする。たとえば、「使い捨てプラスチック製品は出来る限り使わない」とか。
そこで思い浮かんだのは、多くの宗教が採用している「戒律」だ。「羊は食べてはダメ」「豚は食べてはダメ」「この月は夜までご飯食べちゃダメ」「妻帯はダメ」とか、めちゃくちゃシンプルなんだけど、社会に深く浸透して、多くの人が守っている。また、戒律を守って生きるために、「ハラル認証」のような社会的な制度が整備されていることもある。
これから、気候変動に本当にインパクトを与えるくらい人々の生活を変化させようとしたら、それくらい分かりやすい「戒律」のようなものをつくって普及させていかないと、とてもじゃないけど個々人の行動を変えられないんじゃないかと思う。
「戒律」を守った商品を選べる認証制度がもっと発達すれば、消費者はいちいち迷わないで済むし、メーカーも、環境に良い商品をつくるようになるだろう。
カンペキな「戒律」をつくろうとしたらその前に人類が滅んでしまうだろうから、2030年に間に合うように、粗いものからつくって、走りながら修正していく必要がありそうだ。
少々脱線したが、そんなことを夢想させてくれた、有意義な一冊だった。
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