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エネルギー問題を俯瞰してざっくり理解できる良書『エネルギーをめぐる旅』

『エネルギーをめぐる旅』(古舘恒介著・英治出版を読んだ。石油大手のJX石油開発で技術管理部長を務める著者が、長年、ライフワークとしてエネルギーについて研究した成果をまとめた一冊。それだけに、著者が人生賭けて書いたという気合がなみなみと伝わってくる良書だ。

 

内容としては、人類の誕生からのエネルギーとのかかわりの歴史を紹介しながら、気候変動問題や資源の枯渇といった問題にこれから社会がどう対処していくかを考える、といったもの。エネルギー問題は今に始まったものではなく、実は古代文明のころから森林資源の枯渇というかたちで人類が繰り返し直面してきた課題だ、というあたりはなかなか参考になる。

エントロピー」を通して人類史を俯瞰する

著者のオリジナリティが出ているな、と思うところは、エントロピーの増大」という視点でエネルギー問題を見通したところだ。

 

閉じられた世界では、エネルギーは「秩序」から「無秩序」へと不可逆に移行していく。これが「エントロピーの増大」だ。ところが、地球のように外部(太陽)からエネルギーが与えられる世界では、例外的に「無秩序」から「秩序」への移行が起こることがある。

 

その典型的な例が、太陽エネルギーによって暖められた海水と大気によって渦を巻く複雑な構造が生まれる台風だ。こうしたものを「散逸構造」というが、人類の文明もまた、台風と同じように外部からのエネルギーを吸い込んで拡大していく一つの散逸構造という。

 

エネルギーを吸い込むスピードが速まるにしたがって構造(文明)はどんどん複雑さを増すが、結果としてエネルギーを吸い尽くしてしまうと、最終的は崩壊してしまう。だから、人類はエネルギー吸収の速度をスローダウンすべきだという。

 

まあ、当たり前といえば当たり前の結論なのだが、現実の裏にある不変の公式を垣間見せてもらったような気がして、なるほどと思わされた。

「四国を超える面積」に太陽光パネルを敷き詰められるか

もう一つ、面白かったのは、「では、人類は今後どうすべきか」というパートだ。

 

まず、筆者が期待をかけるのは「核融合発電」だ。原発より安全に、はるかに大きなエネルギーを生み出す夢の技術。これが完成すればエネルギー問題はほぼ解決、という評価なのだが、完成は100年後くらいと見なければならない。2050年くらいまでには深刻な事態が待ち受ける気候変動問題には全然間に合わない。

 

そこでいま必要なのは、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの拡大。水力、潮力、地熱は利用できる場所が限られているため、やはり期待できるのはこの2つらしい。

 

では、太陽光や風力だけで電力を賄うことはできるのか。古舘さんの試算では、仮に太陽光だけで日本のすべての1次エネルギーを賄おうとした場合、国土の5・5%(四国全土よりやや広いほどの地域)に太陽光パネルを敷き詰める必要があるという。電力のみを賄うとしても、青森県に相当する地域がパネルで埋め尽くされる。

 

では、風力はどうか。洋上風力で考えると約70万基の風力タービンが必要になるが、風車同士の距離を相当空ける必要があるため、必要な面積は太陽光の10倍以上にも拡がる必要がある・・とのこと。

 

もちろん試算する人によってこのあたりの数字は変わってくるでしょうが、膨大な面積が必要になることは確かで、徐々にこれが進むとしても一朝一夕で達成できないことは明らかだろう。

 

これらを踏まえて古舘さんが提唱するのは、住宅の屋根に太陽光パネルを設置するなどして、分散型の再生可能エネルギー供給網をなるべく発達させつつ、不足分については海外での太陽光発電などから生産したエネルギーを水素燃料のかたちで輸入するサプライチェーンを構築する、などといった案だ。また、ここは賛否あるだろうが、過渡期の策としては原発も利用すべきだ、という。

 

そうこうするうちに核融合炉が完成すれば、やがて、太陽光パネルで埋め尽くされた大地も開放されるときがくる、という。本当にそうなるかはともかく、仮説としてはよく出来ている感じがした。

 

石油会社の人だけあって数字が具体的でリアリティがあり、私たちが大筋で目指すべき方向性について非常によく理解できた気がする。エネルギー問題を総論として理解するのには、非常に役に立つ本なのではないかと思う。

 

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