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映画『クナシリ』を見て思った「極東ロシア」の果てしない遠さ

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映画の後のトークショーに登場した鈴木宗男さん

ゴミだらけの海岸…荒廃した島の惨状にビックリ

2022年1月8日、渋谷のシアター・イメージフォーラムにて、北方領土国後島の現在を描いたドキュメンタリー映画「クナシリ」を見てきた。74分間でサクっと見れるので、忙しいあなたにもおススメです。

 

映画の終わりのトークショーには、参議院議員鈴木宗男さんが登場。北方領土返還交渉についてスタッフの必死のカンペをもぶっちぎって熱弁をふるってしまい、次の映画の開始が10分遅れるという珍事もあったが、プーチン大統領と4回も会ったという宗男さんの豊富な実体験に基づいた話は面白く、「さすが」と思わせるものがあった。「『北方領土を返せ』と街宣車で1億回叫んだって、帰ってきません。これは外交交渉の話なんです」と言うのは、しごくごもっともと感じた。

 

さて、この映画を撮ったのは、旧ソ連出身でフランス在住というウラジーミル・コズロフ監督。そのせいか、主にロシア政府に対して批判的な視点がにじんでいる作品だと感じた。

 

映画を見て印象に残ったのは、多くの人がそうだろうが、島の荒廃ぶりだ。

 

家にトイレも設置してもらえないような状況で40年も暮らしてきたという女性や、海岸に散乱したビニールゴミや鉄くず、牛が全滅して放棄された国営農場。それでいて、地元政府は対日戦勝記念の軍事パレードだけは盛大に行う……突っ込みどころ満載なダメっぷりの対比として、何もかもが整然としていた日本統治時代が「理想郷」的な感じで紹介される。

 

北方領土がさびれているという話はニュースとかで聞いていたが、ここまでとは、と、ビックリさせられる惨状だった。確かに、「日本に領土なんか渡さない」という地元政府関係者の強硬な意見も語られるのだが、この作品を見る限り、日本が経済援助など有効な交換条件を持ち出せば、ロシアとの領土交渉にも解決の糸口があるのでは、などと思わせるところはあった。

 

私が見たユジノサハリンスクとの大きなギャップ

ただ一方で、事はそう単純でもないだろう、とも思う。

 

私は、亡き父親が終戦間際の樺太(現・ロシア領サハリン)で生まれたこともあって、前からこの「北の地」に興味があり、2019年にはサハリンのユジノサハリンスクを旅行した。北方領土も所属するサハリン州の州都である。

 

事前に、サハリンには今も日本統治時代の名残がある、という情報を目にしていたのでどんなものかと思っていた。確かに日本時代の樺太庁の建物が「サハリン州郷土博物館」としてそのまま利用されたり、工場跡が廃墟としてそのまま残っていたりはしたものの、他は、建物も商品も生活もほとんどロシアそのものであり、街に「日本」を感じさせるものはほとんどなかった。

 

国後と違うのは、ユジノサハリンスクに関しては、それなりに町も発展し、商店も飲食店もいい感じであり、人々もそれなりに幸せそうに生きていると感じられた点だ。映画「クナシリ」を見ると極東ロシア全体がモスクワ政府から放棄され、荒んでいるかと錯覚してしまうが、それは、ロシアの力を過小評価することになりはしないかとも思った。

 

国後島の人口は日本政府のホームページによれば8566人(2020年)。一方、サハリン州全体の人口は48万8275人。映画では「日本人が来れば状況が打開できる」と語る島民の声も紹介されるが、そうした声がサハリン州の人々の多数派を占めるかというと、ちょっと疑わしい。

日本人とロシア人は、もっとお互いのことを知るべきだ

そんな感想は抱いたものの、いずれにせよ、映画で描かれたような国後島の現状すら、私も含め多くの日本人は知らない。それを知らせてくれたことに、この映画の大きな価値があると思う。日本人のドキュメンタリー取材チームが上陸したとして、こんな映像を撮るのをロシアが許してくれるとも思えないからだ。

 

お互いのことを知らないのは、ロシア側にしても同じだと思う。北海道から海を隔ててちょっとだけ東に行っただけの国後島や、ちょっとだけ北に行っただけのサハリン、そして、隣国であるロシアとの間で、もっともっと人や情報が行き来するようになれば、何かしら今よりマシな打開策が出てくることもあるのではないか、と思ってしまった。とにかく日本人とロシア人はお互い、ちょっと異常なほどに没交渉すぎる。自分としても、ほんのちょっとでも日ロの友好に貢献できるようなことがしてみたいと思った。

 

ちなみに2017年からは、日本人がサハリンやウラジオストクなどロシア極東沿海地方を旅行する場合、通常であればちょっと面倒な手続きが必要なビザの申請を、「電子簡易ビザ(e-VISA)」としてインターネットで行えるようになった(8日間以内の旅行の場合。ちなみに北方領土は領土問題が未解決のため日本政府から渡航自粛要請が出ています)。コロナ禍で今は無理だけど、日常が戻ったら、近くて遠いロシアへの旅、おススメです。

 

【今回紹介した映画】

映画『クナシリ』公式ウェブサイト